新型コロナウィルスをきっかけに副業を認める企業が増え、本業とは別に副業を始めるサラリーマンが増えてきました。
この盛り上がりに水をさすともいえる所得税基本通達を一部改正する案が提示されています。簡単にいうと、これまで副業収入を事業所得として確定申告していたサラリーマンでも、副業収入300万円以下の場合は、事業所得ではなく雑所得として申告することを定めるものです。
これにより、副業収入を事業所得として確定申告することで得られる多くの節税メリットが受けられなくなる可能性があります。
今回は、副業を行うサラリーマンが注目している改正案の内容を紹介します。
所得税基本通達の一部改正(案)の概要
2022年8月1日に「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)が国税庁より通知されました。
国税庁は今回の改正の背景を以下のとおり発表しています。(引用元はこちら)
国税庁においては、シェアリングエコノミー等の「新分野の経済活動に係る所得」や「副業に係る所得」について、適正申告をしていただくための環境づくりに努めているところ、これらの所得については、所得区分の判定が難しいといった課題がありました。
国税庁HP、太字下線は筆者追記
かんたんに説明すると、副業をする人が増えて、副業の内容も多様化するなかで、副業の所得をどのように分類すればいいかがわからないということです。
このような背景を受けて、雑所得の範囲を明確にするため、以下の2点が改正案の概要として通知されています。(引用元はこちら)
1.その他雑所得の範囲の明確化
国税庁HP、太字下線は筆者追記
その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいいます。)の範囲に、譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得(営利を目的として継続的に行う当該資産の譲渡から生ずる所得及び山林の譲渡による所得を除きます。)が含まれることを明確化します。
2.業務に係る雑所得の範囲の明確化
業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化します。
また、事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします。
こちらも簡単に説明します。
1つめは、譲渡所得に分類されない資産の譲渡に関する所得を「その他雑所得」として明確化するものです。
肝心なのは2つめですが、ここでは、「副業収入が 300 万円を超えない場合には、特別な理由がない限り雑所得とする」ことが明確化されています。
これによって何が変わるのでしょうか?
事業として副業をしている人がおこなっていた節税ができなくなるかもしれません。
また、この取扱いは令和4年分以後の所得税について適用とされているため、今年の所得税から早速影響を受けるかもしれないのです。
事業所得と雑所得では何が違うのか
では、改正案が副業にどのような影響を与えるのかを考えていきます。
副業で20万円以上の所得を得る人は、「確定申告」が必要です。
確定申告をおこなうには、自分の所得を10種類の所得のうちどれにあてはまるかを判断し自分で分類する必要があります。
1.利子所得:預貯金や公社債の利子などによる所得
2.配当所得:株式の配当金などにかかる所得
3.不動産所得:土地の賃貸料やマンションの家賃収入などにかかる所得
4.事業所得:製造業、卸売業、小売業、サービス業、農業などの事業から生じる所得
事業所得=総収入金額-必要経費(-青色申告特別控除額)
5.給与所得:会社員やアルバイトが会社から受け取る給与や賞与などの所得
6.退職所得:退職によって勤務先から一時に受け取る退職金などの所得
7.山林所得:山林を伐採して売却したり、立木のままで売却することによって生じる所得
8.譲渡所得:土地、建物、株式などの資産を譲渡(売却)することにより生じる所得
9.一時所得:上記①~⑧以外の所得のうち一時的な所得
10.雑所得:上記①~⑨のどの所得にもあてはまらない所得
本業がサラリーマンで給料をもらっている人の給料は給与所得になります。
副業で得た所得を、「事業所得」か「雑所得」のどちらにあてはめるかがこの改正案の重要なポイントです。
前項で改正案の影響として、「節税ができなくなるかもしれない」と説明しましたが、副業で得た収入を事業所得ではなく雑所得とすることでどのような影響(デメリット)があるかを以下の表で整理します。
この表を見ればわかるとおり、「事業所得」に分類することで多くの節税メリットがあるため、副業収入を事業所得として確定申告を行いたいと考えるわけです。
1.損益通算
事業所得に区分される副業の赤字を、給与所得など他の所得から差し引ける
2.青色申告特別控除
①青色申告をする、②複式簿記で記帳する、③確定申告期限を守る、④電子申告または
電子帳簿保存を行うなどの要件を満たすことで、最大65万円を収入から控除できる
3.純損失の繰越控除
純損失(赤字)が出た場合に、その損失を翌年以降3年間にわたって、各年度の所得から控除できる
4.青色申告専従者給与
青色申告者と生計を一にする親族で事業に従事している人(例えば妻)に支払った給与を経費にすることができる。※通常は家族に支払った給与は経費として認められない
今回の改正案の背景
最後に今回の改正案の提出に至った背景について少し整理して終わりたいと思います。
従来、事業所得と雑所得の分類について、「事業から生じた所得であれば事業所得、そうでなければ雑所得」とされており、それぞれの定義が不明確かつその分類は申告者の判断に委ねられていました。
そこで、国税庁は今回の改正案の提出により、従来のあいまいな基準から、「副業収入300万円以下は原則雑所得」という明確な基準を設定したのです。
この改正案が成立すると、これまで申告者の判断で事業所得として確定申告を行い多くの節税メリットを受けていた場合でも、今後は副業収入300万円以下の場合は、雑所得として申告することになります。
そうなると、これまで受けていた節税メリットが失われ、副業を行うサラリーマンにとって増税となるため、今回の改正案が大注目されているわけです。
過去から事業所得と雑所得の判断基準や、副業での赤字を損益通算することによる節税対策の是非については議論が行われています。
今回はその議論については触れませんが、今回の改正案が注目されている理由は知ってもらえたのではないでしょうか。
まとめ
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、所得税基本通達の一部改正案で副業をおこなうサラリーマンにどのような影響があるかについて説明しました。
筆者も副業を行っており、今回の改正案の行方には注目しています。
今回の内容は、FP2級の知識があれば理解できますので、もし興味があればFP資格の勉強を始めてみてはいかがでしょうか。
所得税についてはこちらの記事「【FP2級】会社員でも副業に役立つ所得税の仕組みを理解しよう」で解説しているのでぜひご覧ください。
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