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副業300万円問題の経過と事業所得の要件である帳簿保存を解説

副業300万円問題
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2022年8月、国税庁は「年間300万円以下の副業などの収入は原則雑所得」とする所得税基本通達の改正案を示し、意見募集を行っていました。
この意見募集に対し7,000件を超える意見が殺到し、2022年10月7日、国税庁は『「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について』を公表し、「事業の実態があり帳簿書類を適切に保存していれば事業所得」とする大幅な修正案が示されました。
当記事では、意見募集で寄せられた意見及び修正案の内容と、事業所得と認められるための帳簿書類の保存要件について解説します。

所得税基本通達改正案の概要

<修正前>
事業所得と雑所得の判定は、社会通念上事業といえるかどうかにより行うが、副業かつ収入300万円を超えない場合は、特に反証のない限り雑所得とする。
<修正後>
事業所得と雑所得の判定は、社会通念上事業といえるかどうかにより行うことは変更なし。ただし、収入300万円を超え、かつ事業所得と認められる場合を除き、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合には雑所得とする。

2022年8月に公表された改正案の内容を知らない人や、事業所得と雑所得の違いや事業所得のメリットを知らない人はこちら『副業収入300万円以下は雑所得!?所得税基本通達の一部改正(案)について解説』もぜひご覧ください。

売上高4兆円企業で15年経理を担当している、まなびばです。
異動を通じて、損益管理、会計、税務申告まで幅広く経験しています。
簿記2級、FP2級も取得。
サラリーマンの「お財布」の悩みを救うため、今すぐ役立つ知識を発信しています。

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雑所得の例示等に対する意見公募の結果

国税庁より公表された事業所得と雑所得の区分は以下表のとおりです。
また、国税庁に寄せられた意見及び国税庁の見解のうち主なものを整理したので、まずは表の内容を理解し、興味あればこの考えに至った経緯についてもご確認ください。
個人的な考えですが、8月の改正案は会社員の副業による事業所得を意図的に赤字にして所得税を減らす節税対策が行われていたことや、事業所得と雑所得の区分があいまいであったことへの対策の意図がありました。そもそも事業所得か雑所得は「社会通念で判断する」という大前提があるわけですが、今回の改正案修正で記帳・帳簿書類の保存を適切に行うことで事業所得に区分される範囲が増えたといえそうです。

パブリックコメントからの変更点

✅社会通念で判断するという大前提は変わらず
✅本業か副業かではなく、帳簿書類の保存の有無で所得区分を判断
✅記帳・帳簿書類を保存しておけば、概ね事業所得に区分される
✅副業で収入300万円以下は反証がない限り雑所得となる取扱いは削除

事業所得と雑所得の区分
国税庁「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)より引用

国税庁に寄せられた意見と意見に対する国税庁の考え方

区分意見の概要国税庁の考え方
通達改正の趣旨等✅今回の改正は副業を推進する政府の方針に逆行する
✅事業所得と雑所得の区分は、実態を見て判断すべきであり、形式的な基準を設けるべきでない
✅通達改正で所得区分の判定が明確化され、申告しやすい環境が整備されることから、副業を推進する政府の方針に逆行するものではない
✅その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかにより判定することを原則としつつ、事業所得に該当しない場合を明らかにしたもの
✅事業所得又は雑所得に対する従来からの考え方に変更を加えるものではない
主たる所得か否かを基準とすることについて✅主たる所得の要件が不明確
✅本業か副業かで所得区分を判断すべきでない
✅真面目に記帳等をしている者や開業届を提出している者は、収入 300 万円以下の副業であっても事業所得と扱うべき
✅事業所得か雑所得の判定は、主たる所得かどうかで判定するのではなく、帳簿書類の保存の有無で所得区分を判定する
収入金額が 300 万円以下であっても帳簿書類の保存があれば、原則として事業所得
とする
収入金額を基準に採用することについて✅収入金額は業種によって差がでることから、所得金額を基準とすべき✅その所得を得るための活動が、事業的規模であるかを社会通念で判定することは従来から変わらない
✅所得税法や消費税法の規定を踏まえ、収入金額を採用することは適当
300 万円を基準に採用することについて✅300 万円の根拠が不明
✅収入金額 300万円は大きすぎる
✅令和2年度税制改正において、前々年の雑所得収入が 300 万円を超える場合は、帳簿保存を義務づけるよう改正
✅収入金額 300万円以下の業務を営む者に帳簿保存を求めないことを踏まえ、収入金額 300 万円を基準とした
反証について✅反証の範囲や内容が不明確
✅帳簿書類の保存は反証となるのか
✅所得税法上、事業所得者には帳簿保存が義務づけられているところ、一般に帳簿書類の保存がある場合には、営利性や有償性、継続性や反復性、自己の危険と計算における企画遂行性があると考えられることから、反証に代えて、帳簿書類の保存がある場合には、原則として事業所得にするよう修正した
施行時期について✅通達改正の適用時期を遅らせてほしい
✅令和4年分からの適用は遡及適用ではないか
✅所得区分は確定申告書の提出の際に判断するものであることから、遡及適用には当たらない
✅所得税法上、事業所得者には帳簿保存が義務付けられていることを踏まえれば、令和4年分の確定申告から適用したとしても納税者に影響を及ぼさない
国税庁「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果より引用
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事業所得の要件となる帳簿書類と保存期間(何をどれだけ)

フリーランス

事業所得の要件となる保存が必要な帳簿書類と保存期間は以下表のとおりです。

青色申告の場合と白色申告の場合で分けて記載していますが、それぞれの違いはご存知でしょうか。
青色申告は、日々の取引を所定の帳簿に記帳し正しい申告をすることで、所得の計算などについて有利な取扱いが受けられる制度のことです。
「所得税の青色申告承認申請書」を決められた期限までに提出することで、「青色申告特別控除」、「青色事業専従者給与の必要経費算入」、「純損失の繰越しと繰戻し」といった税金の優遇を受けられるため、白色申告の場合と比べて必要な書類が多くなっています。
青色申告に知りたい人は国税庁HPの「タックスアンサー(よくある税の質問)No.2070 青色申告制度」をご覧ください。

一方、白色申告は青色申告以外のことを言いますが、収入を得るために事業を行う全ての人は、帳簿を備え付けて収入金額や必要経費を記帳し、帳簿や書類を保存する必要があると決められています。

白色申告の場合の帳簿書類の内容、なんかあいまいでわかりにくくないですか。

「収入金額や必要経費を記載した帳簿(法定帳簿)」や、「業務に関して作成した上記以外の帳簿(任意帳簿)」って具体的にどんな書類をいうのか。

初めて準備する人のために次の章で解説したいと思います。

帳簿書類の保存期間
国税庁HP(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/kichou02.pdf)より引用
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白色申告を行う場合の記帳方法

事業所得等を得る場合には、取引の記帳と帳簿等の保存が必要です。
売上などの収入金額や仕入及び経費について、取引の年月日、売上先や仕入先、その他取引先の名称、金額など、日々の取引の内容を帳簿に記載する必要があります。
白色申告の場合は、一つ一つの取引ごとではなく日々の取引の合計金額をまとめて記載するなど、簡易な方法での記載が認められています。

簡易な方法による記帳方法

事業所得を得る白色申告の場合における、簡易な方法による記帳方法は以下のとおりです。
詳細は、国税庁HP「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」をご覧ください。こちらのHPでは、事業所得以外にも農業所得や不動産所得の場合も例として掲載されています。

取引事項記帳方法
売上に関する事項取引の年月日、売上先その他の取引先及び金額の記載が必要です。ただし、次の場合は簡易な方法による記載が認められています。
◆少額な現金売上や小売の場合の現金売上は、日々の合計金額のみ記載
◆納品書控や請求書控等で内容を確認できる取引は、日々の合計金額のみ記載
◆掛売上の納品書控、請求書控等で内容を確認できる取引は、日々の記載を省略し、代金を受け取った時に現金売上として記載。この場合、年末の売掛金残高の記載が必要
◆棚卸資産の家事消費等は、年末時点で消費等をしたものの種類別に合計金額を見積もり、合計金額のみ記載
売上以外の収入に関する事項取引の年月日、内容、取引先及び金額の記載が必要です。ただし、次の場合は簡易な方法による記載が認められています。
◆少額な雑収入等は、その内容ごとに日々の合計金額のみ記載
◆現実に入金した時に記載。この場合、年末における雑収入等の未収額及び前受額を記載する
仕入に関する事項取引の年月日、仕入先その他の取引先及び金額の記載が必要です。ただし、次の場合は簡易な方法による記載が認められています。
◆少額な現金仕入や納品書、請求書等で内容を確認できる取引は、日々の合計金額のみ記載
◆掛仕入の納品書、請求書等で内容を確認できる取引は、日々の記載を省略し代金を支払った時に現金仕入として記載。この場合、年末の買掛金残高の記載が必要。
仕入以外の費用に関する事項給与、外注工賃、減価償却費、貸倒金、地代家賃、利子割引料及びその他の経費の項目に区分して、それぞれその取引の年月日、内容、支払先及び金額の記載が必要です。ただし、次の場合は簡易な方法による記載が認められています。
◆少額な費用は、その項目ごとに日々の合計金額のみ記載
◆現実に出金した時に記載。この場合、年末における費用の未払額及び前払額を記載する

また、加工や編集ができないPDFファイルでの提供なのが残念ですが、以下の「帳簿の様式例(事業所得者用」も提供されています。事業所得者に対して認められる経費の例ともいえますので、この費用は経費になるのか迷ったときなどにも参考にしていただけます。

白色申告_事業所得者 帳簿

また、上記にも記載している国税庁HPの「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」のリンクからさらに詳細な帳簿の記載方法や、記帳及び決算のしかたのyouTubeチャンネルなどの概要を見ることができます。
youTubeはPDF資料のみとなっているため、リンク先を以下に貼っておきます。まず概要編からご覧いただき、白色申告編や決算編などの動画もあるので、一度ご覧ください。

最寄りの税務署で記帳説明会を受けてみる

どうしても記帳の仕方がわからない場合は、最寄りの税務署で記帳に関する説明会を受けてみてはいかがでしょうか。記帳説明会への出席を希望される場合は、最寄りの税務署(所得税担当)に問い合わせてみてください。
※電話相談時間/午前8時30分~午後5時(土日祝を除く)
※税務署の所在地・電話番号は「税務署の所在地の案内」をご覧ください

まとめ

ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、副業300万円問題の続編としてパブリックコメントの結果と事業所得の要件となる帳簿書類の作成方法等について解説しました。
副業には簿記とFPの知識が非常に役立ちます。まだ勉強したことがない人は副業開始とあわせて勉強してみることをおすすめします。

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